一つの中国という謎の固定観念
2021年10月に執筆していますが、現在中国と台湾の間には、今まで以上に緊張な状態が続いています。中国による軍事威嚇行動に対して、台湾も軍事演習などで対抗したり、日本も南シナ海などで、アメリカ・イギリス・オランダやドイツなど、各国との共同軍事演習など、予断を許さない状況になっています。
そんな台湾付近の緊張状態ですが、台湾のことになると、いつも中国の報道官が、「一つの中国」という謎の定義を持ち出すことに、日本人は「いや台湾は中国とは別の国でしょ」と突っ込みたくなるものです。
しかし中国は、国連で過去に「一つの中国」を国際的に認めさせたなのだと主張します。その根拠こそが「アルバニア決議」です。アルバニア決議によって、中華人民共和国が中華民国(台湾)に代わって常任理事国となり、中華民国(蒋介石)が国連を脱退するということになったのです。
今回は、この中国・台湾の亀裂が確定した「アルバニア決議」について考えてみることにします。
中国がいう「一つの中国」の根拠 - アルバニア決議 -
アルバニア決議と盛んに書いてきていますが、正式には「第26回国際連合総会2758号決議」というもので、これは「国際連合における中華人民共和国の合法的権利の回復」という内容のものです。
つまり、第二次世界大戦が終わった後、国際連合に中華民国が常任理事国として在籍していたわけですが、毛沢東率いる共産党勢力が国共内戦に勝利し、中華人民共和国の建国が宣言されました。その後、1949年には国連に対して「中国代表権問題」として提起され、長い期間否決され続けます。
しかし、1971年にアルバニアをはじめとした23か国が「中華人民共和国政府の代表権回復、中華民国政府追放」という提案を出し、中華人民共和国が「中華人民共和国政府の代表権回復、蒋介石の代表を追放」と修正したものが、最終的に可決されました。
これを受けて、中華民国(台湾)は国連を去ることになったわけです。
国連における中国の常任理事国と蒋介石の追放が確定
国連の常任理事国は5つです。
アメリカ・イギリス・フランス・ソ連・中華民国
だったのが、今は
アメリカ・イギリス・フランス・ロシア・中華人民共和国
となっているわけです。
個人的な考えを書くと、この常任理事国の構成はこの状態で良いように思います。若干フランスには違和感を感じなくもないのですが、第二次世界大戦の戦勝国ですし、仕方ないのかなと思っています。以下の記事の様な場合に、この構成が活きていると感じます。
西側諸国だけでなく、東側のロシアと中国が含まれているため、一方の思想に偏った決議が行われない、人類社会における平等な決議ができる状態である、と考えるためです。
(写真 - 左 : 蒋介石, 右 : 毛沢東)
そもそも、中華民国が常任理事国に入っていたのは、第二次世界大戦後に中国の代表として選ばれた経緯があったわけで、その後に政争といってよいのか分かりませんが、軍事的な衝突で共産党の紅軍に敗れたため、一般的には共産党のクーデターで政権を乗っ取られた、いや丸ごと政府構造が変わるわけだから革命ですか。
革命を起こされて中国本土の実権を失ってしまった蒋介石率いる中華民国は、その手腕も経済的な立場も、中華人民共和国に及ばないとされても仕方ないかなと思うわけです。
アルバニア決議時の日本とアメリカ案 - 二重代表制
しかし、日本人の感覚であれば、常任理事国は仕方ないにしても、国として認めないとか、国連から追放とか、それはまた別の話ではないかと思いそうなものです。
日本とアメリカは、中華民国の追放までは考えておらず、二重代表制という代案を提示しています。要するに、中華人民共和国(中国)と中華民国(台湾)が両方国連に在籍するという、現実にあった内容の代案です。
しかし、現実にはアルバニア決議が可決されたことを受けて、この二重代表制という案については決議すら行ってもらえませんでした。
日本の当時の総理大臣佐藤栄作は、世論から外交上の敗戦であると指摘され、内政にまで影響したようです。
結局、台湾とは国交を断絶し、その後の総理大臣となった田中角栄時代に、日本と中国の国交は正常化することとなります。
台湾も国連にいられるよう日本は最大限の努力をした
結果は中華人民共和国の主張が通る形となってしまい、台湾は国連を去ることにはなってしまいましたが、日本は有効的な関係を築いてきた台湾に対して、可能な限り最大限の努力をしたと胸を張れるのは事実です。
残念な結果ではありますが、そういう意味では、当時の国内世論がどうであれ、後の日本人が誇れる行動をしてくれた、当時の政府に対しては、感謝と敬意を表したいと思います。
日台友好万歳です。本当に、台湾ほど永遠に有効的な関係でいたいと思う近隣国はないでしょう。これからも末永くよろしくお願いしたいと思います。
日清戦争以降、同じ日本として発展しながら歴史を共有してきた台湾ですが、日本が第二次世界大戦敗戦国となってしまったため、袂を別つこととなり、国連からも脱退しなければならない事になってしまい、本当に自分の事のように悲しく思います。
常任理事国は中華人民共和国で問題ないと思います。ですが、台湾は国家として国連にも参加し、諸外国にも認められる、そんな二重代表制のような世の中が来ることを、心の底から願って止みません。
中国の諸外国への圧力により台湾は孤立
そしてアルバニア決議が可決したことを理由に、中華人民共和国は諸外国に圧力をかけ始めます。
時には経済的な措置をちらつかせ、時には常任理事国の拒否権をちらつかせ、ありとあらゆる諸外国に、国連で可決された「アルバニア決議(一つの中国)」を理由に、中華民国(台湾)との国交断絶を強要し始めます。
これによって、台湾は国際社会から孤立していくことになります。
日本とアメリカは、残念なことに同じように国交を断絶し、別途友好条約などを締結することになります。これには少し複雑な事情も絡んできます。
アメリカは当時ベトナムで戦争中で、泥沼化したこのベトナム戦争を終結するためであったり、ロシアと中国を分断して東側の連携を弱める目的などで、中華人民共和国の協力がどうしても必要な背景がありました。そういった弱みがある事で、中華人民共和国との国交樹立 = 中華民国との国交断絶という運びになったわけです。
しかし、アメリカと台湾の間に締結されている、台湾協定は、非常に曖昧さの残った形になっていて、この曖昧さ故にアメリカ・中国との微妙な距離感が保たれているとも言えます。台湾有事はアメリカ合衆国にとって非常に重要な関心事である、という位置づけです。
台湾側として参戦するとも言い切っていませんし、中国・台湾の戦争に関わらないとも言い切っていないところが、この曖昧さたる所以です。お互いが意思を確定できずにいるため、小康状態が続いているという状況です。
アルバニア決議へのヨーロッパ諸国の賛成
アルバニア決議において、ヨーロッパ諸国は悉くが中華人民共和国側、つまり賛成に票を投じています。日本やアメリカと違い、アルバニア決議自体に賛成しているのです。
当時のヨーロッパが中国の利権に対して何か既に繋がりがあったのか、何か重要な国際関係の密約でもあったのかは分かりません。しかし、彼らのこの決議への賛成が、今の新冷戦と言われるアメリカ・中国の対立を引き起こしていると言っても過言ではないでしょう。
今更になって、アメリカや台湾の肩を持つように、イギリスのクイーン・エリザベス(空母)を日本近海に回して圧力をかける側についていますが、元を辿れば彼らのその当時の決断こそが問題だったのだと苦言を言いたくなるものです。
まとめ
台湾有事といった、戦争を予見する様な書籍や文書、報道などが本当によく目立ちます。煽っているわけではないのでしょうが、あまりに多すぎると国民も不安に思うと思うのですが、それほどまでに緊張した状態ということなのでしょう。
ただ、専門家達の見解では、今すぐに何かが起こるということは考えにくいというのが一般的なようです。
速くても6年程度、2030年代頃が最も危険で、2050年頃になると安全性が高くなるだろうという見方のようです。2030年代は、中国がアメリカをGDPで追い抜き、その後中国は少子化などが原因で失速、2050年代にはまたアメリカがGDPでも覇権を取り戻すという予想のようです。
「2034」というアメリカの小説がベストセラーとなったことも鑑みると、やはり2030年代が最も中国が勢いがあり、台湾に対する強硬な手段にでるという危険性が最も高まる時期というのは、共通した認識のようです。
戦争のような悲劇は勘弁してほしいですが、中国・台湾のこの関係は、何かが壊滅的に一度壊れでもしない限り、望む形にはならないような気がしてなりません。もう一度、中国内部で革命でも起きればよいのですが。天安門事件の二の舞ですかね…
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