日本の脱ガソリンは中国に学ぶべき
日本におけるガソリン車については、菅義偉首相が2021年1月の施策方針演説で「2035年までに新車販売で電動車100%を実現する」と方針が発表されています。執筆時点は2021年10月で、後10年と少ししかありませんが、それまでに自動車業界は大きな転換期を迎えることになります。これから自動車の購入を考えている人は、今後の社会の動きも考えて、慎重に車種などを選んだ方がよいでしょう。
そんな急速に進められる脱ガソリンですが、中国でも同じように進められています。中国はいち早く電動車の充電インフラを拡充しましたが、その施設は現状思った様に機能しておらず、脱ガソリンの難しさを如実に表しています。
今回はそんなニュースと共に、脱ガソリンの進め方と今後の日本や世界の行く末を考えて行ってみます。
日本も中国も脱ガソリン目標は2035年 - 新車販売禁止
先に述べた通り、日本では2035年までにガソリン車の新車販売が禁止され、電動車と呼ばれる電気を燃料に走ることができる自動車のみが販売される世の中にするという大きな目標を掲げています。これは菅義偉首相が2021年に施策方針演説で発表していることです。
電動車というのは、電気のみで走る車を指すわけではありませんので注意が必要でしょう。
電動車というのは、以下の4種類すべてを含めた分類になります。
・電気自動車 (EV)
・ガソリンと電気の両方を使用するハイブリッド車 (HV)
・外部充電も利用できるプラグインハイブリッド車 (PHEV)
・水素で発電しながら走る燃料電池自動車 (FCV)
日本でも有名なトヨタのプリウスはハイブリッド車として人気も高く、世界でも非常に多くの台数が流通しています。走行音が独特で静かなこともあり、私も好きな車種です。日本では今後どのように対応されるか分かりませんが、少なくとも欧州では2035年にプリウスの様なHVやPHEVなどにも規制がかけられる方針です。
最終的には、カーボンニュートラル(二酸化炭素の排出量と吸収量を同等にする)を目標とする方針なので、広い意味ではHVやPHEVというのも規制していかなければ難しいのでしょう。現状温室効果ガスの排出量が15%と大きな割合を持つ自動車業界は、今後も厳しい対応がされていくことになるでしょう。
日本の充電インフラ整備の進捗と課題
電動車への移行で最も難しい問題はインフラ整備とされています。
日本ではガソリンスタンドが全国にあり、ガソリン車はどこを走っていても燃料を給油することができる社会が構築できています。最近は、電動車への移行やガソリンスタンドの維持管理にかかる費用などが問題で、最盛期の半分ほどに数が減っているそうですが、それでも全国で30000件くらいはあるようです。
一方で電動車用の充電設備の拡充も進められていて、こちらは今の日本では7000件を超えたそうです。実際に電動車を利用している人は徐々に便利になってきているのでしょうが、そうでない人は相変わらずガソリン車が道路を走っている現状もあり、変化を感じる程ではないのではないでしょうか。
しかし、この充電施設には問題もあり、なんと充電するのに30分もの時間がかかるそうなのです。ガソリンスタンドでは数分で済む待ち時間が、何倍にもなってしまうこの問題は非常に致命的です。ちなみにこの30分というのは急速充電の時間で、普通充電で満タンにする場合だと今の技術では6時間くらい(200V)かかるそうです。ちなみに家庭用電源の100Vだと50時間かかるそうです…。
プライベートで充電に訪れた場合は時間に融通も利くためまだましですが、勤務中に急いで燃料を補給しなければならないような場合などもあり、そういった場合は電動車はこれまでのようにはいかず、大幅な時間ロスが生まれてしまうことになります。
中国で進んだ充電インフラは廃墟のような状態
日本でも着実に進められている充電インフラの整備ですが、さらに素早い対応を進めた中国では少し悪い状況になっていることがニュースで話題となっています。
ゾンビ状態という表現が正しいのかは分かりませんが、要するに作ったのはいいけど利用者がいないという状況を表しています。利用者がいないため、折角投資して設備を作ったものの、実質稼働させず停止した状態になっているというのです。世界で最も進んだことをアピールする中国ですが、その設備11万個のうち27%が停止状態とされています。
これはカーボンニュートラルが進むことによって徐々に解決していく問題かもしれませんが、この動画内の街頭インタビューでは興味深いことを知ることができます。
インタビューに答える男性は、「郊外などにスタンドが少なく不便」だというのです。
確かに、充電設備(スタンド)がない地域で電動車を利用するのは恐怖です。ガソリン車を購入するときはそんな心配をすることがありませんが、これから電動車を購入する場合は、新しい移動手段であると認識し、地元の充電設備やスタンドの状況を把握する必要がありそうです。
日本の充電インフラ整備は進むが地方まで届くか
このニュースを知ると、日本の充電インフラがどこまで広がるのか心配になります。
そもそもガソリンスタンドも営利目的の一つの企業であって、ガソリンの仕入れと販売で利益を上げて運営しているだけです。郊外にガソリンスタンドを出店するのはリスクもあるでしょうが、付近に他のスタンドが少なければ、長距離を移動する郊外の自動車が十分な給油をしてくれ、利益も出せるのかもしれません。こういった資本主義的な思想はいつも地球温暖化を進める際には弊害にしかならないことを思い知らされます。
電動車の充電スタンドは、同じように利益を出していくことができるのでしょうか。
同じ流れを想像すると、電気を購入してそれを販売して利益を出すということになるのでしょう。ガソリンとは違い、送電線があればよいのでしょうか。普通の電線で賄えるのであれば、仕入れ経路はガソリンより単純化でき、流通コストも大幅に削減できそうです。充電時間の問題はありますが、これが便利になれば販売価格に依りますが利益は出せそうにも思います。
初期設備投資や運営維持管理の費用など、まだまだコストが見えてきませんが、今後2035年に向けて、そしてその先も含め、電動車向けのインフラ事業は今が投資時なのかもしれません。実際EV関連企業の株式相場は好調の様子です。しかし、実際に投資する場合は、中国の失敗例に見習って、同じような過ちを繰り返さないように注意する必要があるでしょう。
諸外国の脱ガソリン目標について
中国は日本と同じ2035年にガソリン車の新車販売を停止する方針ですが、その他の諸外国はどのような動きなのか確認しておきましょう。
アメリカ・カナダ : 2035年と日本や中国と同じ
フランス : 2040年目標
イギリス : 2030年目標, 2035年にはHVやPHEVも禁止
多くの先進国は2030年代に大きな転換期を設け、それぞれの方法で進めていっている最中のようです。特にイギリスについては産業革命を始めた責任感からなのか、非常に厳しい方針を打ち出していると思います。日本がガソリン車の販売停止をする2035年には、ハイブリッドや外部充電するプラグインハイブリッド車まで禁止とし、完全にガソリンから脱却する方針なのです。
日本のトヨタ自動車もEV化を急速に進めていて順調で、2019年にはEV販売台数の目標を5年間短縮するほど成果を出しています。しかし、2021年の7月には株式時価総額でアメリカのテスラに追い抜かれてしまいました。今後のEV化については、日本政府へ強力な支援も要請しており、日本が誇る自動車産業は、今後世界的な競争力を失う危険性もあるとされています。
まとめ - 社会の変革に対する期待 -
少し不謹慎かもしれませんが、自動車という人々の生活を支える重要な移動手段が、自分が生きている間に大きく変革しようとしている状況には、少しワクワクしてしまいます。
産業革命以降に徐々に広がり始めた自動車は、第二次世界大戦前後で急速に一般庶民に広がり、今や一家に一台と言われるほど重要なものになりました。しかし、それに伴い急速に悪化することになった地球環境に気づいた人類は、その技術を手放すのではなく、改善して対応しようと必死な訳です。
記事をまとめていると、またホセ・ムヒカ氏のスピーチを思い出します。「ドイツと同じように世界中の人が自動車を持つことができるほど、地球の資源は潤沢な状態なのか」と問う言葉は、本当に今の先進国の政治の問題点を的確に追及していると感じます。
ガソリン車が走らず、静かに動く電動車が道を走る新しい世の中を見るのが楽しみです。人間の生命には限界があり、限りなく未来を知ることが出来ないことが、本当に残念です。未来の人々が幸せで、安定した地球環境が保たれる、そんな世界が来ていることを願うばかりです。
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