チベット宗教の根本を潰しにかかる中国
今日は中国とチベット自治区のお話です。
急にチベットの話題を記事にしているのですが、2021年10月現在、突然中国がチベットの統治に対する正当性をアピールするニュースが飛び込んできたのです。過去にも何度か同じような発言を繰り返してはいますが、近隣諸国への圧力を強めている中国が、チベットに対しても強硬な姿勢を貫いているので一層気になります。
歴史や現状の中国とチベットの関係性を知っていると、この中国の報道については憤りを感じることはあっても共感することはできないでしょう。しかし、時間が経つにつれて経緯を知らない人が増えると、状況は中国に有利に動く可能性があります。それこそが中国の狙いなのかもしれません。
風化させるわけにはいきませんし、正しい経緯を理解しておかなければと思い、改めて中国とチベットの関係性を見つめ直すことにします。
中国による統治で発展するチベット
今回中国のニュースで王毅外相は、中国による統治が行われるようになって、チベットは経済的に大きく発展したということで、チベット統治についての正当性を改めて強調した形です。
実は、この発展についてだけ言えば、私は全く異論はありません。確かに中国自体も目覚ましい経済発展をしていて、これは非常に素晴らしいことだと思うのです。そして、その中国の発展は、ある程度チベットの地域に貢献していることが容易に想像できるのです。
この発想は、日本がかつて台湾や韓国、そして満州地方などに与えた経済的な発展の影響と同じようなものだとも思うのです。
チベットの人たちは、中国が統治することでそれまでよりも豊かで安全な生活を送ることができるようになった一面については、純粋に感謝すべきところでもあると思います。
しかし、問題はその統治に正当性があるかどうかという話です。
チベット統治は軍事制圧で始まる - 正当性とは?
チベットは、元々は中国とは別の国だったわけですが、中国で国共内戦が終結し、中国共産党の勝利が確定した後に関係性に変化が起きます。
1949年に新しく樹立した中華人民共和国は、チベットに対して軍事侵攻を行い始めます。追われたチベット政府はインドに亡命し、亡命政府を立ち上げます。そして、1951年にチベットを制圧した中国は、その地域の統治を始めることになるのです。(十七か条協定)
この軍事制圧による統治は、客観的に見て正当性があるとは到底思えません。
しかし、軍事制圧されてから既に70年近い月日が経過し、当時のことを知る人は少なくなりました。加えて中国による統治で、地域は目覚ましい発展を遂げているのです。
発展さえすれば正当性があることになるのでしょうか?
私はそうは思いません。
中国におけるチベットの重要性 - 地政学 -
中国にとって、チベットという地域は地政学上非常に重要な意味を持ちます。人々の生活に欠かすことのできない「水」の資源が、チベットは非常に豊富で、多くの国に流れる川の水源でもあるのです。
非常に分かりやすい動画がありましたので、紹介しておきます。こういう動画は本当に助かります。感謝です。
水の資源と水によるクリーンなエネルギーなど、とにかく中国はチベットを何としても抑えておかねばならず、例え軍事制圧した過去があっても、その歴史を捻じ曲げてでも正当性を主張するしかないのでしょう。
また、中国によるチベットへの攻撃は、軍事的なものだけに留まりません。
チベットという地域には、古くからチベット仏教による統治が行われているのですが、共産主義思想の中国共産党はこの宗教を許しませんでした。
チベット仏教はトップの転生先を相互指名する伝統
チベット仏教は、少し変わった制度があり、トップであるダライ・ラマは世襲などではなく「転生」するとされています。
最近は、ラノベやアニメなどで頻繁に異世界転生などという言葉を耳にする時代ですが、チベット仏教のトップは、次代は子供に転生し受け継がれていくというのです。
しかし、この転生は自分の後継者を直接指名するのではなく、2つの役職に別れ、それが相互に転生先を指名し合うという形をとります。トップのダライ・ラマは、次のパンチェン・ラマを指名し、パンチェン・ラマは次のダライ・ラマを指定するという形式です。
ダライ・ラマ ⇔ パンチェン・ラマ
これによって、チベット仏教の伝統は受け継がれてきたのです。
しかし、中国によってこの宗教の伝統が侵害されているのです。
パンチェン・ラマ11世は中国によって保護(拉致)
現在のチベット宗教のトップ、ダライ・ラマ14世は、1995年に伝統通り次代のパンチェン・ラマ11世を指名します。当時6歳のニマという少年でした。
しかし、指名した直後(3日後)に、その少年は行方不明となってしまい、後に中国共産党から「少年を保護した」と伝えられます。そして、中国共産党からは、その少年とは別人の偽パンチェン・ラマが送り返されてくるという始末です。
つまり、中国の狙いとしては、次のチベットのトップになるダライ・ラマ15世を、中国に都合の良い人間を選ぶため、選ぶ権利のあるパンチェン・ラマ11世を拉致したと見られるのです。最近も香港かどこかで似たような話を聞いたような話です。
現在本物のパンチェン・ラマ11世は普通に大人になって働いていると中国は発表していて、保護という名目はそのままで詳しい状況は分かっていません。
しかし、現在のダライ・ラマ14世の後継者は選ばなければならないのです。執筆時点で既に86歳とご高齢なのです。
高齢となったダライ・ラマ14世の後継者問題
現在ダライ・ラマ14世は既に高齢で、いよいよ後継者を選ばなければならない状況となっています。
しかし、中国共産党が寄越した謎のパンチェン・ラマ11世に決めさせるわけにもいかず、今のところは伝統を破ってでも、選挙等の方法で決めるしかないとの見方が強まっているようです。
今回のダライ・ラマ15世の後継者問題を乗り越えたとしても、さらに次の後継者や次のパンチェン・ラマ12世を決定する際などにも、また中国が保護という名目で妨害工作してくる可能性は高そうで、それを止める有効な手立てはあるのでしょうか? 圧倒的な軍事力や経済力を振りかざし、力で圧力を強めてくる中国によって「支配」されているチベットに未来はあるのでしょうか?
ダライ・ラマ14世の雑学 : オウム真理教との接点
現在もチベット宗教の頂点に位置するダライ・ラマ14世ですが、日本で恐ろしい事件を起こしたことで知られる「オウム真理教」と過去に繋がりがあったことはあまり知られていないかもしれません。
オウム真理教が、日本で宗教法人化するための申請書類には、チベット宗教のトップであるダライ・ラマ14世の推薦状がつけられていたとのことです。オウム真理教の教祖である麻原彰晃が、チベット仏教およびダライ・ラマに対して1億円以上という多額の献金をして、この推薦状を得たとされています。
その後もオウム真理教とチベット仏教は交流を続けようとしますが、チベット仏教側の幹部が麻原彰晃の危険性をダライ・ラマに上申したことにより関係は途絶します。そのことを恨んだ麻原彰晃は、そのチベット仏教の幹部を糾弾する書籍にまとめて出版していたそうです。
奇しくもこの書籍があったことにより、オウム真理教の事件後に、チベット仏教側は関与がないと身の潔白を証明することにもなり、むしろ糾弾されていてよかったとまで言われています。
まとめ - 共産主義では宗教は麻薬 -
共産主義の原点であるマルクスの資本論では、宗教というものは麻薬と同じで人間を堕落させるものと位置付けられています。
中国共産党が、チベット仏教や新疆ウイグル自治区のイスラム教を激しく弾圧する背景には、こういった宗教を受け入れない思想が根付いていることも関係しているのかもしれません。
しかし、チベットのこの問題を見ていると、今後も中国の理不尽な弾圧によって、伝統のある文化や宗教が、迫害され消滅していくことになるのではないかと、世界の行く末に不安を覚えずにはいられません。何と言っても中国は日本の隣国でもあるのです。
ダライ・ラマの後継者問題は他国の問題ではありその重要性については当事者のみが知り得ることだとは思いますが、私たち日本に置き換えて考えてみると、天皇陛下の後継者が中国共産党の子供に勝手にすり替えられるようなものなのではないでしょうか。そう考えると、このパンチェン・ラマ11世の保護という名目の拉致は、とても許されるものではないと思うのです。
パンチェン・ラマ11世の人権や将来の自由はどうなのでしょう
ただ、可能性としては、本当にパンチェン・ラマに指名された子供が嫌がって中国に保護を依頼したということもあり得なくもありません。遊びたい盛りの少年が、突然勝手に宗教の偉い人に任命され、宗教の勉強を強いられるというのは、現代社会では人権や自由などで問題になってもおかしくないのかもしれません。
中国が明らかにするか、パンチェン・ラマ11世が声明を出したりしない限り、真実は闇の中です。
今のチベットは中国に対して独立は求めないようになっていて、完全な自治を要求しているだけとのことですが、動きが活発な中国との今後については、引き続き目が離せない状況です。
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