2021年9月16日木曜日

中国ネットゲーム規制 - 週1時間の制限へ

event_note9月 16, 2021 editBy Fluffy Knowledge forumNo comments

ネットゲーム中毒への対策効果は


2021年8月、中国は流行するネットゲームについて規制を行ったことで、大きなニュースになっています。中国はeスポーツの世界でも大変活躍している国の一つでもあり、また中国産のネットゲームとして「荒野行動」などは日本でも人気コンテンツの一つとして有名です。

そんなIT社会と言われる現代において、子供から大人まで楽しめるネットゲームを規制する目的と、その規制に伴う変化について考えてみます。



ゲームは「精神的なアヘン」 - 週末1時間の制限


中国は、ネットゲームのことを「精神的なアヘン」と揶揄しています。

これは、過去の中国において、爆発的に蔓延してしまった麻薬の一種である「阿片(アヘン)」と同じくらい、危険で有害なものと認定したということです。アヘンは、当時のイギリスとの関係をも悪化するに至り、最終的には1839年から約2年もの長い間戦争をすることになってしまいました。(アヘン戦争)


今回の規制では、「ユーザー登録を実名で行う」ことを前提として、「18歳未満の未成年者へのサービス提供を週末夜8時から9時までの1時間に制限」されることになります。日本でも昔から、よく「ゲームは一日一時間まで」と親に制限されたりしていましたが、今回の規制は国から強制力を持っての企業への指導という形で執り行われることになったわけです。

狙いは学業専念と健康


今回のこの規制では、「ネットゲームが学業と健康を損なう要因である」としています。つまり、ゲームばかりしていないでもっと勉強しなさい、という本当に親のしつけのような規制です。

確かに、ネットゲームの恐ろしいところは、今までの「クリアしたら終わり」という概念がなく、「永遠にプレイが終わらない」上に、スポーツなどと同じように「もっと上手くなりたい」と考え、無限に時間を費やすところにあるでしょう。


学業に専念すべき年代において、この時間の浪費は、国家全体の学力低下の原因となりかねず、国の政策として制限したくなる気持ちも分かります。

また、過去にはネットゲームのやりすぎで命を落としてしまったという強者がいたりもする怖い世界でもあります。


日本でも、香川県で「ネット・ゲーム依存症対策条例」というものが制定されたり、似た動きがありますが、この条例については既に「幸福追求権」や「自己決定権」を侵害しているとして地元民から提訴されています。推進派の人々の意見を恐れずにいうと、私としても、人気になっているスポーツを禁止しているのと同義と捉えており、自由を束縛する悪法と考えています。

制限対象はネットゲーム提供企業


今回着目すべきは、制限の対象はネットゲームプレイヤーではなく、「ネットゲーム提携企業」に対するものである点でしょう。

つまり、「個人に対する制限の徹底は難しい」と考え、提携企業側を締め付けて、プレイするゲームが提供されないようにするという間接的な規制という形をとっていることになります。


このネットゲーム市場は世界的なソフトウェア経済の一角として、近年非常に育っている業界です。インターネットが世界的に普及することで爆発的な広がりを見せ、2024年の北京オリンピックではeスポーツが種目として取り上げられるかという話題が上がるほどです。

ネットゲームプレイヤーへの影響


間接的にではありますが、若いネットゲームプレイヤーについては大きな影響があるでしょう。

中国産のネットゲームをプレイして楽しんでいた人たちは、今までのようにプレイすることはできず、週末だけ遊ぶという形になるため、その人たちはもしかしたら学業に専念するようになるかもしれません。

しかし、eスポーツ選手たちにとっては、死活にかかわる大きな問題でしょう。


中国はeスポーツの世界にはとても意欲的で、プロeスポーツの団体が50以上あるとされています。その中で活躍する若い世代は、今回の規制によって練習時間を大幅に失うことになります。結果として、若年層のeスポーツ選手は、事実上世界的な競争力を失うことが容易に想像できます。


海外のネットゲームは規制対象外


しかし、ネットゲーム規制の対象は中国企業に限ったもので、海外製のネットワークゲームを中国政府が規制することはできません。

つまり、元々海外のネットゲームをプレイしていた場合は、何の影響もなくプレイを継続することが出来ますし、中国のゲームをプレイしていたユーザーも、規制されていない海外ゲームをプレイするようになることが予想されます。

海外のゲームが中国人の人がプレイできるのだろうと、その業界に詳しくない人は思うかもしれませんが、ネットワークゲームのローカライズ(翻訳)で、英語と共に中国語は対応されている率が非常に高く、中国人は選択肢に困ることはないでしょう。中国のネットゲーム人口は4億人以上とされており、ゲーム提供側としても、プレイ人口が多い中国は、市場として無視できない存在なのです。


eスポーツ選手も、これまで練習していた中国の種目(ネットゲーム)から、海外のものへと種目変更することになりますが、それでも大きなこだわりがなければ今後も活動していくことは可能でしょう。

ネットゲーム制限の効果


ここまで、規制の狙いや、ネットゲームプレイヤーへの影響をざっくり見ていきましたが、今回の規制実施によって、経済などを含めて総合的にはどのような効果が表れてくるかを考えてみます。

一方中国ゲーム産業へのダメージは甚大と予想


中国のネットゲームについては、2020年の市場規模は約2兆5300億円とされており、この経済に与える影響は小さくないでしょう。中国のネットゲームを提供する企業は、若年層のユーザーを大きく失うことになります。


ネットゲームというのは、プレイ人口がかなり重要です。

何故なら、相手がいなければサービスとして、種目として成り立たない世界だからです。若年層が離れてしまうことで、試合の成立にかかる時間が延びてしまうなどの弊害が予測され、若年層以外もサービス品質の低下を感じ、離れていってしまう危険性もあるでしょう。そうなってしまうと、人口減少は歯止めが利かなくなり、サービスは閉鎖を余儀なくされると予想されます。

ですが、海外のネットゲーム企業は変わらずサービスを拡大し、中国のネットゲームプレイヤー達がそちらに流れることになってしまうため、自国の経済は低迷し、他国の経済を助長するという結果になると考えられます。

北京オリンピックを始め、世界的な舞台での中国ネットゲーム企業は、急激に世界競争力を失うことになりかねません。

主目的である学業専念と健康に効果は薄い


一方主目的である「学業」と「健康」についてはどうでしょうか。

世界的にネットゲームの提供が規制される、または中国国内で世界に次々と生まれるネットゲーム全てを自国内でプレイ禁止にする方法が確立されるなどが行われない限り、中国国内でのネットゲームプレイ環境は今と変わらないでしょう。

つまり、今回の規制によって、ネットゲームプレイヤーのプレイ時間は変わらないと容易に想像ができます。


プレイ時間が変わらなければ、学業や健康に与える影響は皆無でしょう。残念ながらこの程度の規制では、現在の流行を止めることはできません。それこそ、海外からのコンテンツ輸入を全面停止とか、思い切った統制・規制を行わない限りは。

今回のこの規制案を出した人は、ネットゲームをプレイしたことがない昔の人間なのではないかと邪推したくなるほどです。

まとめ


ネットゲーム業界を促進させようとか、中国の政策を批判しようとか、そういった意図は特にありませんが、残念ながら今回の規制による効果は、「百害あって一利なし」と言わざるを得ないと考えます。

逆に、海外のネットゲーム提携企業は、今回のこの規制によって得られる恩恵が大きいのではないでしょうか。中国国内にサービス提供拠点を構えてしまっている場合は、残念ながらこの影響を直で受けてしまうことになるでしょうが、そうでない場合は、中国4億人の「ネット世界における民族大移動」が起こりそうな予感がします。

個人的に気になるのは、[League of Legends](通称LOL)という世界的に大人気なMOBA(Multiplayer Online Battle Arena)の提供会社Riotが、中国Tencentの完全子会社になっていることです。今後サービス提供形態が変わると、プレイ人口に変動が出るかもしれません。


パソコンさえあれば、スポーツのように手軽に取り組むことができ、またeスポーツを始め、その世界で収益を得ることができる道が用意されており、時間さえかければ上達して収益を高めていくこともできる。そんな産業世界を否定して、止めることができるのでしょうか。


確かに、人類全体の未来を考えた時、ネットゲームが与える人類に与える影響でポジティブなものは少ないかもしれません。ですが、「個人の幸福」は個人の意思によって判断されるべきで、それを外部から強制することが良いことだとは思えません。人類が勉強をして賢くならなければならないとする考えも、国家や一部の人たちによるエゴなのではないでしょうか。

今回のこのニュースは経済や政治だけでなく、人の幸福のあり方を含め、色々と考えさせられます。

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