2021年7月22日木曜日

帰ってきたヒトラー - コメディーなのに怖い映画

event_note7月 22, 2021 editBy Fluffy Knowledge forumNo comments

映画『帰ってきたヒトラー』


映画を観ました。「帰ってきたヒトラー」という映画です。

歴史が好きな自分としては、コメディータッチの映画ということでこれまでは敬遠していましたが、Amazon Primeで評価もそこそこ良かったので見てみました。

最初に書いておきますが、コメディーなのは最初だけで、徐々に民主主義の中で思想をねじ曲げ、民意を誘導し、危険な思想へと導いていくという、思想的な恐怖心を感じるような映画です。人々の政治への関心が薄れることに対する警鐘を鳴らすような、そんな映画になっていて、個人的にはかなり楽しめました。



 


「帰ってきたヒトラー」の映画概要


映画の概要なんて、ちょっと調べればいくらでもでてくるので簡単に書いておきます。


映画は、ヒトラーが現代の時代に目覚めるというところから始まります。
そこから、ヒトラーがコメディアンと勘違いされながらテレビ番組に出演し、人気を得て活きながら、現代のドイツ政治についての問題を指摘しながら、民意を徐々に誘導しはじめます。
ヒトラーを発掘したテレビ関係者は、実は彼は本物で、徐々に大衆が扇動されていることに気づき、止めようとしますが…。

というような展開です。

最初はタイムスリップ後の奇行で噴き出すような場面も多くありますが、徐々に人間を誘導するような場面が多くなり、まるで宗教の勧誘のような、背筋が凍るような怖さがあります。

全体通して、私個人の感想ですが、コメディーというよりも恐怖映画を観た感触です。
いくつか私が恐怖を感じた一節を紹介します。

もうシェパードは生まれない。種が消滅するのだ


現代に蘇ったヒトラーを、発掘したテレビ関係者が様々な所に連れて行って現代の知識を与え、体感させるような場面があります。物語の序盤に近い部分です。

その中で、犬を育てているブリーダーでしょうか、外で楽しく犬と戯れるような明るい場面で、ヒトラーが、世話をしているであろう女性に、シェパードとプードルを交配させたらどうなる?というような質問をします。
女性は「馬鹿なの?」というような嘲笑を浮かべながら受け答えをします。
それに対して、ヒトラーはこう返します。

「もうシェパードは生まれない。種が消滅するのだ」

これを聞いた女性は、段々と笑顔が消え真顔になっていきます

このシーンは、純粋なドイツ人の国を創造しようとしていた当時のナチス政策を思い出させ、全身が凍り付くような恐怖を感じました。特にここまでがコメディータッチだったこともあり、一気に気温が下がったような感覚でした。

ブラックジョークは正直見る人を選びます


言葉は悪いですが、本当に吐き気を感じたシーンがあります。
グロテスクなものではありません。

ヒトラーはテレビ番組に出演することになりますが、そこでヒトラーに読ませるためのネタをテレビ関係者がある程度練ることになります。
数字至上主義のスタッフが指示をします。人種問題など何でもネタにしてよいと。

その指示のもと、各スタッフが止む無く案を出すのですが、その内容はジョークやコメディーで済まされないようなひどい内容でした。本来ならいくつか紹介したいところなのですが、本当にここに記載するのも憚られる内容なので、気になる方は是非本編を閲覧ください。

これがドイツで作成されている映画であることに驚かずにはいられません。

民意の扇動と民主主義の正当性


映画も終盤に差し掛かったころの一部です。

ヒトラーの正体に気づいたテレビスタッフが、ヒトラーに銃を突きつけ、扇動をやめるんだというような内容で追い込むシーンです。

冷静なヒトラーはそのスタッフに対して以下のように返します。

1933年の当時
大衆が扇動されたわけではない
彼らは計画を明示したものを指導者に選んだ
私を選んだのだ
(中略)
どうする?
選挙を禁止するか?

彼ら(大衆)の本質は私と同じだ


ヒトラーだけが間違っていたのではない。大衆も賛成したではないかと。

非常に考えさせられます。
過ちを繰り返すまいと、多くの先人たちの軌跡を学びますが、大衆が間違った道に逸れて行きそうなときに、確固たる意志を持つことが大事なことは分かっています。ですが、自身も誤った道に行かない保証はありません。この過ちを知らない世代が増えてしまうと、人類は同じことを繰り返してしまうかもしれません。多くの人が正しい歴史を学ぶことは、非常に重要です。
その選択をした後の未来が、過去の類似案件などから即時にシミュレーション結果が参照できるなど、そんな便利な未来になってくれれば過ちもないのかもしれませんが。

兎に角、このシーンは恐らくこの後の部分と合わせて、このコメディーと冠した啓蒙映画の核心と感じました。

(追記)
この民主主義で選ばれたナチスドイツ政権については、ドイツでは深い懸念と反省が教育にも表れていて、ドイツ人たちは盛んに政治議論を行い、二度とこのような政権を生まないような努力を、日々の生活の中で行っているようです。

その件については別の記事にまとめましたので、どうぞ参考にしてみてください。


好機到来だ - 現代の人々への警鐘 - 


映画のエンドロールの直前、現在の実際のニュース映像などを織り交ぜながら、ヒトラーが色々と考えるシーンがあります。
現在も移民などを巡って差別的な紛争などが起きている状況を考えながら、ヒトラーはこう考えます。

「好機到来だ」

また人々は過ちへの一歩を踏み始めてるのではないかという警鐘と受け止めました。
皆さんはどのように感じるでしょうか。

全編通して面白可笑しくしつつも、民主主義や政治への向き合い方に対する警鐘といった強いメッセージを感じることのできる、非常によくできた映画だと感じました。

まとめ


コメディーと思って軽く見始めましたが、思いのほか考えさせられる映画で、そして何より多くの恐怖をもらいました。

歴史の知識を得るのは好物ですが、人々が知らず知らずに考えを危険な方向へ傾けていくというのは、文章で読むだけでも分かったつもりでいました。映像で実際にそういうシーンを見ると、人の弱さにつけ込む話術、つけ込まれる弱さなどが生々しく、あぁこういう感じなのかと腑に落ちる部分もあり、勉強にもなりました。

映画としては、ヒトラーの政策、ドイツの当時の状況などをある程度把握した状態で見ないと、正直面白みが半減するかと思います。日本人は第二次世界大戦は太平洋戦争(大東亜戦争)については多くを学びますが、欧州戦線については教育が薄いようにも思います。そういう意味では日本人はあまり楽しめないかもしれません。

歴史好きの人は楽しめます。歴史に興味がある人は、コメディータッチで気軽に見始められるので良いかもしれません。

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